セスナ172P型の技術情報

技術情報全般

セスナ172P型の滑空性能

無動力状態での最大滑空性能は、「滑空距離(m)÷高度(m)=約9」で、下記の最良条件でそのときの高度の約9倍の距離を飛行できます。グライダーではこの値(滑空比)が25〜50程度です。

         対気速度   65KIAS (セスナ172P型の最良滑空速度 65ノット)
         プロペラ    風車状態 (風圧で自由に回転している状態)
         フラップ     アップ    (フラップを格納している状態)
         風        無風

操縦練習で「エンジン故障を想定した緊急着陸操作」訓練を行う場合は、突然教官がエンジンをアイドル状態にします。
訓練生は最優先で速度を65ノットに調整しながら不時着地を探し、以降65ノットを維持しながら「緊急操作手順」を実行します。実際には不時着地への着陸進入態勢をとった後、ある高度まで下がったら訓練を終了して上昇します。

  

着陸進入速度

この「操縦練習」の中で記述している速度は、総て対気速度です。対気速度とは、空気と主翼の相対速度をいいます。従って、次のような式が成り立ちます。
着陸は、風のあるときは必ず風上の方向に向かって行います。従って、以下の「風速」は向かい風成分に限定して説明します。
    対気速度 = 風速 + 対地速度
(例)  70kts    20kts    50kts
(例)  70kts     0kts    70kts

主翼が適切な揚力を得るためには、それに合わせた対気速度が必要になります。
着陸進入時の速度は基本的に次のようになります。

     フラップ2段(20度) 対気速度 70ノット
     フラップ3段(30度) 対気速度 65ノット
     滑走路進入時    対気速度 60ノット

着陸進入時に注意が必要なのは、向かい風が強い時です。もし風が急に止まったら、必要な対気速度(揚力)が得られなくなります。風が脈動(強くなったり弱くなったり)していたり、ガスト(突風)があるときは特に注意が必要です。 そのため、風速がある程度以上強くなると、安全策として基準に従って対気速度を増やして着陸進入します。
また、ある風速以上では、フラップを2段までしか下げないで着陸します。これは、強い風で機体が煽られて不安定になるのを防ぐためです。

ペダル操作

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ラダー操作とブレーキ操作を一つのペダルで行います。
ペダルの下部を水平に押し込むとラダーペダルとして働きます。同時に前輪も動くようになっていますので、タクシー中の方向転換にも使用します。その機能上、左右どちらか一方のペダルを操作します。
ペダルの上部を車両のブレーキと同じように踏むと、ブレーキペダルとして働きます。基本的に左右同時に同じ力で踏みます。

風について

着陸時に風が正面から吹いている場合は、少し強い風でも操縦操作には殆ど影響がありません。多少正面からの風がある方が、着陸操作がやりやすい面もあります。
しかし、横方向から風が吹いていると、とたんに着陸操作が難しくなります。
セスナ172Pの横風着陸制限は15ノットですので、風の方向と強さから横風成分を把握することが必要になります。
       風の成分図         横風成分図
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向かい風は、向かい風成分と横風成分に分解できます。横風成分表に%表示している数字は、その方向の風に占める横風成分です。
進行方向30度(時計で1時の方向)で、横風成分は50%になります。
50度では、77%にもなり、風速=横風成分に近くなります。
30度の方向から30ノットの風が吹いていると 30(ノット) × 0.5 = 15(ノット)で横風制限値になります。

フライトプランを作成する場合は航法計算盤の操作で、横風成分が偏流修正角に、向かい風(追い風)成分が計画飛行速度に対する減少分(増加分)として反映されていきます。

クラブ (横風中の着陸)

横風の中で着陸する場合は、最終旋回(ファイナルターン)後は、クラブで滑走路近くまで飛行します。
クラブは、蟹(crab)からきている言葉で、蟹の横這いをイメージしています。実際、横風が強いときは、機体は滑走路に対して斜めになった状態(蟹の横這い状態)で近づいていきます。
しかし、この姿勢は車輪が進行方向に対して斜めになっているため、このままでは着地することができません。最後はウイング・ロウ(別項)と云う方法で着陸(着地)します。

   クラブ
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通常の野外飛行でも、風のあるときはクラブの姿勢で飛行しています。
ただ、滑走路に近づいていくと、クラブの姿勢を顕著に感じるようになり、このままの姿勢では絶対に着地できないことを実感します。

ウイングロウ (横風中の着陸)

横風の中の着陸でも、実際に着地する時点では、機体を滑走路に正対させなければなりません。
このため、滑走路近くまでクラブの姿勢で飛行した後、最後はウイングロウの姿勢に変更します。
操縦桿を風上側に切って風上側の主翼を下げて風に対抗して、同時に反対側のラダーを踏み込み込んで、機首が滑走路に正対するように調整します。
操縦桿の前後方向の動きは、通常の着陸操作の場合と同じです。
高度数十フィートから滑走路面に近づくにつれて、通常は風が弱くなっていきます。
このため、風を感じながらウイングロウの深さの調整と、ラダーの調和を行います。
難しい技術ですが、必ず習得しなければならない技術ですので、十分に練習することが必要です。

  ウイングロウ
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エンジン

エンジンの主要仕様は次のとおりです。
 型  式     ライカミング式 O−320−D2J型 1基 空冷、通常吸気、キャブレター装備
 排気量     水平対向4気筒 5240 CC
 圧縮比     8.5 : 1
 最大出力    160 BHP
 最大回転数  2700 RPM
 重  量     約113 kg

  

バルブ形式はOHV(オーバーヘッドバルブ)の2バルブで、プッシュロッドでバルブの閉開を行う方式です。
テクノロジー的には古典的で出力面では劣るものの、構造がシンプルなため高信頼性を誇ります。バルブは1気筒に付き、排気が1つ吸気が1つの合計2個です。

点火プラグは1シリンダーあたり2本装備され、2つのマグネトーから別々に点火されます。マグネトーとは自家発電点火装置のことで、バッテリーやオルタネーター(交流発電機)がなくてもエンジンに点火を行なえる装置です。 つまり、バッテリーやオルタネーターが故障しても、エンジンだけは回り続ける設計になっているため飛行の継続が可能です。但し、着陸時にフラップの操作などで電力を必要としますので、バッテリーが完全にダウンする前に速やかな着陸が必要です。

排気量当たりの出力は、高性能乗用車エンジンの約半分程度です。圧縮比・最大回転数もかなり低めになっています。これは、エンジンの軽量化を図るとともに、絶対的な信頼性を得るためにあえて低く押さえているためです。

   
  
      エンジンの説明は、Orecon Chopper を参考にしました。